韓国の名匠ホン・サンス監督の長編第28作目となる日本公開最新作『WALK UP』の日本劇場公開を記念して、主演のクォン・ヘヒョが韓国より緊急来日し、日本最速上映会後のトークイベントに登壇した。
まずクォン・ヘヒョ氏が「20年前に『冬のソナタ』で来た東京に、またこのような形で来ることが出来て嬉しいです。ホン・サンス監督の作品を通して、皆さんとまたお会いすることができて、本当に光栄です。」と挨拶。さらにホン・サンス監督から特別にメッセージが到着し、「私たちが作った映画を今日観に来てくださった観客の皆さんに心から感謝いたします。私が自らご挨拶に行けなくて残念ですが、クォン・ヘヒョさんは映画の主人公であるだけでなく、私と一緒に多くの映画を作った素晴らしい俳優ですので、皆さんと楽しくお話できると信じています。私たちの映画に関心を寄せてくださった皆さんへ改めて心から感謝をお伝えします。」と代読すると、観客から大きな拍手が沸き起こった。クォン氏は「昨日、ホン・サンス監督から届いて、私から読んで欲しいということでしたが、自分で読み上げるのはとても恥ずかしくてできませんでした。」と恥ずかしそうに微笑んだ。
「今日は、ずっと気になっていたことがあります。映画はいかがでしたでしょうか?」とステージから客席に語ると、満席の観客より大きな拍手が起こり、温かい雰囲気でトークがスタート。ホン・サンス監督から出演のオファーはどのように来るのかというMCの問いには「『WALK UP』は、ホン・サンス監督の28本目の映画で、私が出演した9本目の映画です。ホン・サンス監督からの出演オファーは、いつも同じ形でいただきます。それは、「いつからいつまで映画を撮る予定なんだけど、時間ある?」。それだけです。」と答え、場内の笑いを誘った。「いつも撮影の前日までどんな映画になるのか、まったく想像がつかないまま、撮影の当日に、その日の分だけの台本を貰います。ホン・サンス監督は、その日撮影したものを次の日の撮影の糧にするのです。私たち俳優は、次の日の撮影内容も知りません。」と明かし、観客を驚かせた。
メインストリームの大作『新感染半島 ファイナル・ステージ』や現在Netflixで配信中のドラマ『寄生獣-ザ・グレイ—』になど幅広い作品で活躍しているクォン氏だが、ホン・サンス監督作では『それから』以来の単独主演作になり、挑み方の違いについて問われると、「完璧な台本です。アドリブは一切なく、ホン・サンス監督は本当に精巧に精密に作品を作っています。撮影の日の朝、台本をいただいてから1時間でセリフを覚えます。ワインを飲むシーンはワンシーンで17分間ありますが、一気にセリフを覚えるので、かなりの集中力が必要とされます。」と、ホン・サンス監督への敬意をこめて撮影の裏側を語った。
さらに本作の舞台となる地上4階・地下1階建ての小さなアパートについて、「ホン・サンス監督から、ソウルの江南に面白い建物を見つけた。ここで撮影したら面白い映画ができると思う、というお話がありました。」と明かし、「ホン・サンス監督の作品世界は、非常に特別な構造で、繋がっているようで繋がっていない世界です。皆さんがご覧になった順番通りに、本当に順撮りしていくので、私も驚きながら撮影に臨んでいます。」と微笑みながら語った。
俳優として、どのように出演作を決めているのかという問いには「役柄の大きさに関わらず、作品の内容で決めていますが、私が若い頃からホン・サンス作品のファンでした。28年以上に渡り、唯一無二と言えるご自身の世界がある芸術家であり、作品を通して全世界にメッセージを送っている方です。」とホン・サンス監督への信頼をにじませた。
さらに劇中でギターを演奏していることにちなみ、弾き語りで「上を向いて歩こう」を日本語で披露するサプライズも行われ、会場が歓喜に沸く一幕も。最後に「皆さんとお会いできて嬉しい一方、作品というのは、観終わった後は観た方のものだと思っているので、皆さんの思いを壊してしまうのではないかなとも思っていたのですが、私にとって今日のこの場は本当に嬉しい場になりました。これからも多くの関心を寄せていただけると嬉しいです。どうか皆さんお元気で、健康でお過ごしください。」とトークを締めくくった。
6月28日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺、Strangerほか全国順次公開